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2015/08/22

柳原良平氏 思い出

大先輩イラストレーターの柳原良平氏が、今週お亡くなりになったという報道がありました。

柳原良平氏と言えば、壽屋(現サントリー)宣伝部時代(1954年入社)に同僚の開高健氏らと共に(のちに山口瞳氏も入社)数々の名広告を生み出しました。アンクルトリスはまさにその時代に生まれた氏を代表する名キャラクターです。(当時の飲んべぇたちの“民度向上”をめざして創刊された「洋酒天国」も彼らの作品で、柳原良平氏のイラストも大活躍しています。)これらは詳細を書くと、とてつもなく長くなりますので、今回は個人的な思い出ということで省略させていただきます。

私自身は、リアルタイムには当時のアンクルトリスが活躍していた時代はほぼ知らないのですが、中高校生時代から色々と昔の物(主に1950~70年代)に興味があって、コレクションしたりしていました。そんな中でアンクルトリスの楊枝入れや洋酒天国ほか、当時のサントリーのノベルティ等も集めていて、そこかしこに登場する氏のイラストにはとても魅力を感じていました。

しかしながらそれらは、私が就職し、社会人となった1990年代には、世間的にはかなり昔のものとして受け止められていて、(今の様にアンクルトリスが復活する大分前です。トリス自体も飲んでいる人はほぼいなくて、せいぜいREDでした。)同僚や先輩にもアンクルトリスを知っている人はまるでいませんでした。※身近で唯一、当時足繁く通っていた御徒町の「スタンディングコーナー」という立ち飲み屋は、奇跡的にアンクルトリスの看板を使っていました。(安くて楽しくて、名物マスターがいて、本当にいい飲み屋でした。)ちょっとまた話が脱線してきました…。

私自身イラストレーターになりたいと思い、何のコネも仕事も無い状態でしたが、(とにかく、夢とやる気だけの状態で。)当時(1996年)デザイナーとして努めていた印刷会社を退職する事にしました。そこで、「何か新たな出発を」と考え、東京から実家の熊本までバイクで野宿しながら帰ってみる事にしました。途中、色々と寄り道しようと考えて、前年たまたま読んだ新聞記事をなんとなく思い出し、尾道に出来た柳原良平氏のミュージアムへ行こうと思いました。しかし、如何せん行きあたりばったりの旅で、「尾道」「柳原良平」のキーワードしか頭に無く、適当に国道を尾道方面へ走っていたら着くだろうと思っていたのですが、一向にそれらしき看板も建物も見つからず、どんどん進んで行きました。(当時は携帯もありません。)そこで、尾道市役所の観光課へ行き「柳原良平さんの美術館はどこですか。」と尋ねると、分からない様子。しばらくして「あ~ぁアンクルの館かね。」と場所を教えてもらうとかなり福山方面よりで、大分引き返す事に。(このことがのちにラッキーな結果をもたらしてくれました!)

ようやく到着すると、ミュージアムというよりは普通の一軒家風。まだ駆け出しどころか、イラストレーターを目指しているだけで、何も仕事をしていない自分にとっては、畏れ多い憧れの大大大先輩の作品が展示してある所、なんだかちょっと意外でした。駐車場も車は無く、中へ入ると受付の女性がひとりいて、他に客は無し。
受付で、ファンである事を話すと「ゆっくりご覧下さい。」とのこと。そして館内は……。 まさに「宝の山」でした。当時の印刷物、ノベルティ、貴重なビデオ上映、そして、かなり無造作に置かれた“原画”の山。あまりにも作品と身近に触れ合え過ぎて、かえって緊張してしまいました。(この様な展示も氏の人柄なのかと思います。そういえば、柳原氏はいつもニコニコしているイメージがあります。)そのような時間を過ごしていると、にわかに「ざわざわ」している感じが。受付に行き、先程の女性に尋ねると「先生がお見えになります。」とのこと。(館内には先生のアトリエを再現したコーナーもあり、広島方面の百貨店で個展の際に年に数回だけ立ち寄られるという事でした。)大緊張で、しばらく待っていると、それらしき方が!当時の自分にとって、これからなりたい、なれるか分からないけど、会社も辞めて決意した職業の大先輩。偉大過ぎて、しばらく離れたところから背中を見つめていました。

しかし、「こんなチャンスは滅多に無い!」と思い、先程の女性に相談してみると「お声をかけてみたらいかがですか。」ということで、緊張MAXの中「柳原良平先生、先生のファンです。」と話すと意外にも「あなたも船が好きなのですか。」というお返事。(先生は有名な船キチでもいらっしゃいました。)「いえ、先生のイラストのファンで、自分もこれからイラストレーターを目指して…。」緊張のあまり、その後の話しの内容は憶えていません。すると、お付きの方が「写真撮りましょうか。」と言ってくださり、先生との2ショット写真を撮影していただきました。それに加えて、イラスト入りのサインまで心良く書いていただきました。その時の写真とサインは自分の仕事場にずっと飾ってあります。

この一連の旅の事は、自分にとって生涯の思い出となっています。

柳原良平先生、その節は本当にありがとうございました。
「天国」でも素晴らしい作品を描き続けてください。
心よりご冥福をお祈りいたします。

柳原良平氏と